小説 | ナノ
僕はいつも君が起きるまで起きている。だから翠が起きている時は眠たくって、つまり僕らの睡眠は入れ替わり立ち代わり、かわりばんこだ。
言ってしまえば、生活リズムが合わない。そして、翠の見る僕の六割は眠っているということ。
「ねえ、きはちろ、起きてよ」
「んー……やーだー…ねむい……」
「遅くまで起きてるからでしょー?買い物行こうよー…」
きっと君は知らないんだ。僕が君の寝顔を見るために夜を徹する理由を。まだ君と一緒に寝ていた頃、僕がふと起きて目にした君の安らかな寝顔。まくらにふわりと広がった柔らかい髪の毛。
まるい頭をそうっと撫ぜると静かに眠っていた顔がゆるんで、さらけ出された額にくちづけたらふうわりと幸せそうに笑って。いつだったかの冬に、翠のストールを借りた時にちょっとだけ似ている幸せ。
「…ねえ翠、撫でて」
「は?ていうか喜八郎、起きてるじゃない!」
「いいから、なでて。とびきり優しく。それでおでこにちゅーしてくれたら、起きるよ」
「き、きはちろ…!?」
「じゃないと僕また寝ちゃいそうかも。あーねむいなー、ほら早く」
「え、え、え……」
眠り姫におはよう
131125 つまり幸せってこと。
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